MAPO堂

最終決定は存在しない。

タイトル未定(安部公房の「題未定」を読んだので)

安部公房の「題未定」を読んだ

図書館へ行った。

子供の散歩のついでに絵本を見に行っただけだったのだけど、ブログで誰かが安部公房の「砂の女」を薦めていたのを思い出してまた読みたくなってしまった。

安部公房の文庫本は学生の時に買いあさっていたので持っていたけど、引っ越しの時に全部処分してしまった。振り返るともったいないことをしたと思う。

図書館で「砂の女」を探したけど無かった。代わりに唯一見つかった安部公房の「題未定」という本を借りて、読んだ。

(霊媒の話より)題未定: 安部公房初期短編集

(霊媒の話より)題未定: 安部公房初期短編集

気になったフレーズ

子供という言葉に敏感になった気がする

しかしとにかく、今から話す奇怪な出来事さえなければ、私は順調にやがて結婚し、年を取り、課長になったり取締役になったり、そして子供の病気に頭をいためたりして、終いに幸福な衰えの中で休む事が出来たに違いないのだ。 (安部公房「題未定」第一の手紙〜第四の手紙)

全存在そのもの

私はもう会社に出掛ける事も止した。と云うよりは、そんな事はもう星の言葉よりも意味の無い、空言に等しかった。此の日からの私の生活を、客観的な態度で描写表現する事は一寸不可能だろう。普通の意味での生活と云うものはもう無くなって了ったのだから。私は宇宙を呼んだ。そして宇宙に呼び返えされて、全存在そのものだった。 (安部公房「題未定」第一の手紙〜第四の手紙)

意味がよくわからない、が気になった。
子供の「宇宙語」を聞いていると面白い。

意見を言う

「冗談じゃない。それは船長さんの考え異いですよ。つまらないだとか、大人げないだとか……物事のそう言う様な区別の仕方には不賛成ですね。普通つまらないとか大人気ないとか言われている事が、案外目に見えない所で人生の大きな役割を占め、時には主題にさえなっているものです。目に見えているものは、その奥に在る大きな塊りの様々な性質を、ばらばらに示している仮の宿で、影の様なものだと言うのが私の意見です。」 (安部公房「題未定」白い蛾)

言うと案外対応してくれることも多い。が、言い過ぎはいけない。

悪魔の姿

その声に応じて割目の間にきらっと輝くものがあった。そして元気よく一匹の悪魔が跳ね出して来た。少し猫背で、体中に黒い毛が輝いて居り、手足の爪は鋼鉄のようなつやを持っている。しかし以前と較べれば、彼には悪魔がすっかり元気を失くしているのが良く分った。今まで浮き出るように純白だった眼が幾らか濁り黄色くなっているし、唇の色も悪るくなっている。ふさふさした肩の毛並みも心持乱れているようだ。けれど勝気な悪魔は胸を張って彼の横に腰掛けた。 (安部公房「題未定」悪魔ドゥベモオ)

想像できたけど、絵に書いたら全然ダメだった。

「人間は化石を尊重し過ぎる」

(略)人間は化石を尊重し過ぎるのだ。しかし俺はそれ程化石を尊重する気にはなれない。或いは俺自身十二分に化石であり過ぎるからかもしれないがね。しかし本当に変わらないものは……比喩的な言い方だが……それは化石よりもむしろ既に消えてしまった肉体の部分なんだ。君にはそれが分かっている筈だよ。君がくよくよする訳がさっぱり分らない。万事君の計画通りになっているんじゃないか。 (安部公房「題未定」悪魔ドゥベモオ)

そう言われるとそうかもしれない。

魚の骨は簡単に捨てるけど、恐竜の骨は発見になる。

感想

安部公房の「カンガルー・ノート」がまた読みたくなった。脛毛が「かいわれ大根」になる話。発想がすごい。

砂の女」も。「箱男」も面白かったな。